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個人の目標やミッション達成のために、どのように仕事すべきかについて
解説したノウハウ本は数多くありますが、情報システム構築などの世界で活用される
「プロジェクトマネジメント」の理論を、プライベートな目標を達成するために使う
という点で本書は実にユニークです。
日本IBM出身でプロジェクトマネジメント学会の元会長である著者が、ダイエットや大学院の受験、
禁煙など個人的な「プロジェクト」で、プロジェクトマネジメントのさまざまな手法を使って
成功した経験者の事例を紹介しています。
プロジェクトマネジメントでダイエット」というと難しそうな印象ですが、特に変わったことをするわけではありません。
プロジェクト遂行に必要なことを整理し、それをこなしていくという面は、目標がプライベートものであっても、ビジネス上のゴールであっても同じです。個人的な目標にも、プロジェクトマネジメントの手法を取り入れれば、目標に近づいていく自己管理がより高い精度で行えるということです。
例えば、やるべきことをTo Doリストにして整理する際に、項目と期限、チェック欄を単純に作るだけではなく、必要と思われる見積もりの時間や実際にかかった時間、進捗状況がパーセントで分かる表などの欄を付け足します。見積もりに加えて実績時間の記録を習慣づけるようになると、見積もりと実績の差が縮まり、作業の負荷を正確に予測できるようになります。その結果、どの作業をどんなペースで、いつからスタートすればよいかが分かるというわけです。
そのままではTo Doリストが作りにくい大きなテーマでは、「WBS」(ワークブレイクダウンストラクチャー)という手法で、細かい具体的なプロジェクトに落とし込むと良いそうです。本書ではWBSで生活習慣病予防に取り組んだビジネスパーソンの事例が解説されています。「減量プロジェクト」「体型維持プロジェクト」「生活習慣改善」などのプロジェクトに大別した後、それぞれを「運動療法実施」「リバウンド防止」「チェックリストによる確認」などの小さなプロジェクトごとに細分化し、開始日と終了日の予定を個別に立て、実施後には実績も記録して管理したことで、目標値まで体重を落とすことができたとのことです。WBSでプロジェクトを分解し、それぞれを実績付きのTo Doリストを作る時に見積もった時間でこなしていく「段取り」をつければ、物事を期限通りに成し遂げる習慣が自然と身につくと本書は提言しています。
1分間の振り返りが効果を高める
もう一つ、個人の目標管理に持ち込むものとして新鮮な印象を受けたのが「ステークホルダーマネジメント」です。プロジェクトのメンバーやスポンサー、ユーザーなど利害関係者(ステークホルダー)に対し、どんなケースでどのようなコミュニケーションを取るのかを考えるものです。一見、個人のパーソナルプロジェクトマネジメントには無関係のように思えます。しかし個人であっても「家族」や「仲間」などは重要なステークホルダーであり、必要に応じて相手の興味や賛同を引き出し、結果を共有することが、次のプロジェクトをスムーズに始めるためにも必要というのです。
個人のステークホルダーマネジメントは、関係者の特定と相手の立場への配慮、相手の賛同と実行や成功の共有などのプロセスを、サイクルとしてまわしていくことです。その実践例として筆者は、趣味のマイコン工作で、パートナーを巻き込みながら趣味に没頭できる環境を作り上げたケースを紹介しています。
またビジネスのプロジェクトには必ずあって、個人のプロジェクトにないものが、プロジェクト終了後の「振り返り」です。個人でも1分間でもいいから振り返りを行うことで、次のプロジェクトに挑戦するときのヒント集を作ることができ、具体的な手法としてTo Doリストに反省の一言を残しておくことなどを勧めています。
本書はプロジェクトマネジメントの理論を、個人の目標達成手法として使うことを提案したものですが、個人的な目標のプロジェクトマネジメントを通して、ビジネスシーンで求められるプロジェクトマネジメントを学ぶという逆の活用法もありそうです。その点で、プロジェクトマネジメントを全く知らない方にもお勧めできる本です。